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カラオケで歌える歌

人生で、カラオケという場所に行ったことが、本当に数えるほどしかない。 マイクの前で歌うということに関しては、日常的にたぶん普通の人の何倍も経験がある。 レコーディングでも、ライブでも、ミックス中の修正でも、マイクと声の距離感にはそれなりに慣れているつもりだ。 しかし、カラオケという環境では、ほとんど経験がない。 行ったことがあるのは、同窓…

人生で、カラオケという場所に行ったことが、本当に数えるほどしかない。

マイクの前で歌うということに関しては、日常的にたぶん普通の人の何倍も経験がある。

レコーディングでも、ライブでも、ミックス中の修正でも、マイクと声の距離感にはそれなりに慣れているつもりだ。

しかし、カラオケという環境では、ほとんど経験がない。

行ったことがあるのは、同窓会などでどうしようもなくそういう流れになった時くらいである。

昔、知り合いの大人の先輩にスナックへ連れて行かれたことがある。

そこで、

「こいつ、プロのミュージシャンだから」

みたいに紹介されてしまった。

やめてくれ。

ハードルが一気に上がる。

何を歌えばいいのかわからなくなり、なぜか私は「津軽海峡冬景色」を歌ってしまった。

もちろん、初めて歌う歌である。

当然、のびのび歌えるわけもない。

結果、なんとも言えない空気になった。

しかも後になって知ったのだが、「津軽海峡冬景色」はスナックのカラオケ達人たちの間では、もっとも安易に手を出してはいけない、実力が問われる楽曲らしい。

それを聞いて、あの夜の記憶はいっそう辛いものになった。

最近、長岡スタッフチームでカラオケの話題になった。

これは一度ちゃんと経験してみよう、ということで、近くの「まねきねこ」に行ってみた。

目的はひとつ。

自分が何を歌えるのか知りたい。

何か歌わなければならない状況になった時に、問題なく選べる一曲を見つけておきたかった。

なんとなく、自分のイメージとしては、めちゃくちゃ色っぽく歌い上げられる曲が案外面白いんじゃないかと思っていた。

たとえば「ワインレッドの心」。

大人の色気。

夜。

グラス。

甘い声。

少し危険な感じ。

そういうのが自分に合うんじゃないかと勝手に思っていた。

ところが、歌ってみたら全然ダメだった。

なんか遠慮がちになる。

歌に入りきれない。

妙に恥ずかしい。

むしろ、まだド演歌で「北の宿から」あたりを歌った方が気持ちよく歌える。

ただ、それを自分のオハコにしてしまうと、スナック(行かないけど)では絶対に批評対象になる気がする。

「そこ、もっと溜めないと」

「情念が足りない」

「都はるみはそんな浅くない」

みたいなことを言われそうで怖い。

新しめの曲で覚えているのは洋楽ばかりだし、いきなり洋楽を歌い出すおじさんは、たぶん一番面倒くさい。

「出た、そういうタイプの人だ」

と思われること間違いない。

一方で、いかにもSugarfieldsさんに似合いそうな感じのある「上を向いて歩こう」。

これはさすがにベタだよなあ、と思いながら歌ってみた。

すると、めちゃくちゃ気持ちよかった。

スタッフのウケも良かった。

なんだろう。

自分では、大人の色気とか、渋みとか、そういう方向に行きたいと思っている。

でも実際に声を出してみると、案外、まっすぐで、明るくて、少し飄々としているものの方が似合うらしい。

自分が描いている自分のイメージと、

実際に自分に似合うものは、けっこう違う。

これは音楽に限らず、人生でもよくあることなのかもしれない。

人は案外、自分のことをわかっていない。

そして、他人の方が、

「あ、それ似合ってますよ」

と、あっさり見抜くことがある。

カラオケとは、恐ろしい場所である。

自意識が、

マイク一本で丸裸にされる。

でもまあ、ひとまずわかった。

いざという時は、上を向いて歩こう。